先日デザインさせていただいた本ができ上がってきました。ほぼ文字だけ、色も2色刷りのシンプルなデザイン。右上に斜めに貼り付けあるのは、特色で指定した色見本のチップです。かなり見本に近い色を出していただきました。
今回取り上げたいのは文字の微妙なニュアンスの話です。文字をフォントそのままではなく、輪郭をボカシて角を丸めるような加工をすることがよくあります。例えるならアイスやチョコなどを”溶かした”様な「とろけ加工」です。なぜかこのような「とろけ加工」をした文字に惹かれるのです。この仕事を始めた頃からずっと「いいよなー」と思っていました。
今回の表紙の文字のタイトルでもこのような加工をした文字を使っています。加工前の文字と加工した文字を比較したものがこちらです↓
さて、このような「とろけ加工」をいいなーと思っているのは何も僕だけではなく、たぶん多くの人がそう感じるようです。他のデザイナーさんでもこういう加工が好きで多用している人もいます。
実務的にはどうやって加工するのか?という話ですが、以前(デザイン仕事にコンピュータが導入される前)は、写真の引延ばし機を使いました。元の文字の清刷(写植など)を台にセットし、レンズの焦点をわざとずらして印画紙に複写するということをしていました。その頃のデザイン事務所にはこのような写真引延ばし機(トレスコと呼んでいた)があって、入社したてのデザイナーの卵はそこに篭って写真のトレースをしたり、こういう文字の加工複写→現像の作業を覚えるのが最初の仕事でした。
その後、コンピュータを使うようになって文字の「とろけ加工」もphotoshopを使ってわりと簡単にできようになったのですが、そうだとしても使う文字をいちいち画像化して加工して・・・というのは手間であるのは変りません。
そうした中で、ここ数年、あらかじめ「とろけ加工」を施したフォントがいくつか出てきました。「こういうのがあったらいいのに」と思っていたものです。タイトルなどで大きく使う場面では、普通のフォントだとなんか決まらないなーという時も、この「とろけフォント」を使うとグッと見映えが増す。そんなフォントが出てきています。やっぱりみんなこういう文字が良いと思っていたんでしょ!最近はビールの広告キャッチなんかでよく使われているイメージがあります。
では、なぜこういう「とろけフォント」に惹かれるのか。よく考えてみたのですが、実は納得できる答えにはたどり着いていません。「キレッキレのシャープなデジタルっぽさより、やわらかなゆる〜いアナログ感に惹かれる」というよくある言い方はあるのですが、もう一歩、なぜキレキレよりもゆるい方が魅力的に見えるのかまで理由を知りたい。